「サーバーのセットアップって面倒だな…」
「急なアクセス増加に対応するの大変…」
「インフラの運用管理、もっと楽にならないかな」
インフラエンジニアなら、こんな悩みを一度は経験したことがあるのではないでしょうか?
実は、これらの悩みを解決してくれる可能性を持つのが、AWSのサーバーレスサービス「Lambda」です。
サーバーの存在を意識することなく、アプリケーションを動かすことができる――そんな、少し不思議に聞こえる世界を実現してくれます。
本記事では、サーバー運用の経験があるインフラエンジニアの視点から、AWS Lambdaについて分かりやすく解説していきます。
従来のサーバー運用との違いや、実際の使い方まで、順を追って見ていきましょう。
※本ページはプロモーションが含まれています。
AWS Lambdaとは
サーバーレスコンピューティングの概念
Lambdaを理解する前に、まずは「サーバーレスコンピューティング」という概念について押さえておく必要があります。
サーバーレスとは、文字通り「サーバーが無い」という意味ではありません。
実際にはサーバーは存在しますが、開発者やインフラエンジニアがサーバーの存在を意識する必要がないアーキテクチャを指します。
また、従来のインフラとサーバレスでは、管理方法も異なってきます。
サーバーレスでは、これらの作業の全てまたは一部をクラウドプロバイダー(この場合はAWS)が担当することで、開発者の負担を軽減させることができます。
Lambdaの基本コンセプト
Lambdaは、このサーバーレスの概念を「関数」というレベルで実現したサービスです。
具体的には以下のような特徴を持っています:
- イベント駆動型の実行
- 特定のイベント(APIコール、ファイルのアップロード等)をトリガーとして処理を実行
- 必要なときだけ起動し、処理が終われば停止
- 関数単位の実行環境
- 1つの機能を1つの関数として実装
- 必要なメモリや実行時間の上限を関数ごとに設定可能
- 自動スケーリング
- リクエスト数に応じて自動的にスケールアップ/ダウン
- 同時実行数の管理も自動的に行われる
従来型インフラとの根本的な違い
インフラエンジニアにとって、Lambdaは従来の考え方を大きく変える存在です。
主な違いを表にまとめました。
観点 | 従来型インフラ | Lambda |
---|---|---|
サーバー管理 | 必要(OS、ミドルウェア含む) | 不要 |
スケーリング | 手動または自動(要設定) | 完全自動 |
コスト | サーバー稼働時間分 | 実行時間分のみ |
デプロイ単位 | サーバー/コンテナ | 関数 |
状態管理 | サーバー上で可能 | 基本的にステートレス |
実行時間 | 制限なし | 最大15分 |
特に重要な違いは、インフラリソースの考え方です。
- 従来型:
- サーバーという「箱」を用意
- その中でアプリケーションを実行
- リソースの効率的な使用が課題
- Lambda:
- 関数という「処理」を定義
- 実行時に必要なリソースが自動で割り当て
- リソースの無駄がない
このように、Lambdaは「インフラの抽象化」を極限まで進めたサービスといえます。
インフラエンジニアの役割も、「サーバーの管理・運用」から「アーキテクチャの設計・最適化」へとシフトしていくことになります。
なぜLambdaを使うのか
Lambdaの採用を検討する際、ビジネス面と技術面の両方から、そのメリットを理解することが重要です。
ここでは、それぞれの観点から具体的に見ていきましょう。
ビジネスメリット
コスト最適化(従量課金)
従来型のサーバーインフラと比べて、Lambdaは実行時間に応じた課金という特徴があります。
これは以下のような状況で特に効果を発揮します。
- トラフィックの変動が大きいワークロード
- 従来型:ピーク時に合わせてサーバーを用意
- Lambda:実際の利用に応じて自動で調整
スピーディな開発・デプロイ
インフラのセットアップや管理が不要なため、開発からリリースまでの時間を大幅に短縮できます。
- 環境構築の時間削減:数日かかっていたものが数分で完了可能
- デプロイの簡素化:サーバー設定不要 ※Lambdaの設定は必要なので注意。
- スケーリング設計の省略:自動対応
インフラ管理の負担軽減
運用管理の観点から、以下のような工数削減が期待できます。
- OSのパッチ適用不要
- ミドルウェアのバージョン管理不要
- 監視設定の簡素化
- キャパシティプランニングの負担減
技術的メリット
自動スケーリング
Lambdaの自動スケーリングには、以下のような特徴があります:
- 並列実行
- 同時リクエストに応じて自動的に処理をスケール
- 理論上は無制限(実際にはアカウントの制限あり)
- ゼロスケール
- 未使用時はリソースを消費しない
- 最小リソース維持のコストが不要
例えば、突発的なアクセス増加にも追加の設定なく対応可能です。:
通常時:100リクエスト/分
急増時:1000リクエスト/分 ← 自動でスケールアップ(設定変更不要)
高可用性
AWS側で自動的に以下を担保されています。
- 複数のアベイラビリティーゾーンでの実行
- インフラ層の冗長化
- 実行環境の自動復旧
従来必要だった以下の作業が不要になります。
- クラスタ構成の設計
- 冗長構成の管理
- フェイルオーバーの設定
AWSサービスとの連携の容易さ
Lambda関数は、他のAWSサービスとイベント駆動で連携することができます。
代表的な連携例:
- S3:ファイルアップロード時の自動処理
- DynamoDB:データ更新時のトリガー処理
- API Gateway:RESTful APIの実装
- EventBridge:スケジュール実行
- SNS/SQS:メッセージ処理
これにより、以下のような複雑な処理も簡単に実装が可能です。
S3へのファイルアップロード → Lambda関数で画像リサイズ → DynamoDBへメタデータ保存 → SNSで処理完了通知
注意点
ただし、以下の点には注意が必要です。
対策として、
Lambdaは、適切なユースケースで使用することで、大きなメリットを得られるサービスです。
次章では、その基本的な仕組みについて詳しく見ていきましょう。
Lambdaの基本的な仕組み
実行の仕組み
トリガーとイベント
Lambda関数は、様々なイベントソースからのトリガーによって実行されます。
主なトリガーの種類:
- 同期
- API Gateway経由のAPIリクエスト
- ALB(Application Load Balancer)からのリクエスト
- AWS SDKを使用した直接呼び出し
- 非同期
- S3のオブジェクト操作
- SNSメッセージの受信
- EventBridgeのスケジュールイベント
- イベントソースマッピング
- DynamoDBストリーム
- Kinesis Data Streams
- Apache Kafka
コールドスタートとウォームスタート
Lambdaには、2種類の起動パターンがあります。
コールドスタート
概要:初回や長時間未使用時に、関数の実行までに時間が掛かるパターン。以下は、処理の簡単な流れ。
- 実行環境の初期化
- ランタイムの起動
- 関数コードのロード
- 初期化コードの実行
- ハンドラー関数の実行
ウォームスタート
概要:直近で使用した環境が再利用され、高速に起動するパターン。以下は、処理の簡単な流れ。
- 既存実行環境の再利用
- ハンドラー関数の実行
実行環境の基本
Lambda関数は、分離された実行環境で動作します。
- コンテナ技術ベースの隔離環境
- 関数ごとに独立した実行コンテキスト
- 一時的なローカルストレージ(/tmp)利用可能
- 実行環境は再利用される可能性あり
重要な制約と特徴
実行時間の制限
Lambdaには実行時間の制限があります。
- 最大実行時間:15分(900秒)
- タイムアウト時は強制終了
- タイムアウト値は1秒単位で設定可能
実行時間の設定指針: APIバックエンド → 数秒~数十秒 バッチ処理 → 数分~15分 ストリーム処理 → 秒単位で調整
メモリと処理能力の関係
Lambdaの処理能力は、割り当てメモリ量に比例します。
- メモリ設定範囲:128MB~10GB
- CPUパワーはメモリに応じて自動割り当てされる
- 料金もメモリ量に比例
メモリと性能の関係例:
128MB → 0.125 vCPU相当
1024MB → 1 vCPU相当
1769MB → 1 vCPU相当
3008MB → 2 vCPU相当
10240MB → 6 vCPU相当
ステートレス実行の特性
Lambda関数は基本的にステートレスです。
特徴:
- 実行環境は保持されない前提で設計が必要
- グローバル/静的変数の状態は非保証
- 関数間でのデータ共有には外部サービスが必要
状態管理のベストプラクティス:
一時的なデータ → /tmpディレクトリ
永続的なデータ → S3やDynamoDB
キャッシュ → ElastiCache
セッション情報 → DynamoDB
ネットワーク構成
Lambdaは2つのネットワークモードで動作可能です。
1. デフォルトモード
- パブリックサブネットで実行
- インターネットへの直接アクセス可能
- VPCリソースへのアクセス不可
2. VPCモード
- 指定したVPCのサブネットで実行
- NAT Gateway経由でインターネットアクセス
- VPCリソースへのアクセス可能
- ENI(Elastic Network Interface)が作成される
※VPCモード使用時の注意点:
- ENIの作成・削除に時間がかかる
- サブネットのIPアドレス消費
- セキュリティグループの設定が必要
これらの基本的な仕組みと制約を理解することで、Lambdaを効果的に活用したアーキテクチャを設計することができます。
Lambdaの活用シーン
代表的なユースケース
APIバックエンド
API GatewayとLambdaの組み合わせによる実装が一般的です。
特徴:
- RESTful APIの簡単な実装
- HTTPSエンドポイントの自動提供
- リクエスト数に応じた自動スケーリング
具体例:
モバイルアプリのバックエンド → API Gateway → Lambda関数 → DynamoDB(データ保存)
バッチ処理
定期的なデータ処理や非同期処理に適しています。
主なパターン:
- ETL(Extract, Transform, Load)処理
- 日次/週次のデータ集計
- システム間のデータ同期
- ファイル変換処理
実装例:
EventBridge(cron式でスケジュール) → Lambda関数(データ処理) → S3(処理結果保存) → SNS(処理完了通知)
イベント駆動型処理
システム間の疎結合な連携を実現できます。
典型的なユースケース:
- ファイルアップロード時の自動処理
- データベース変更のキャプチャと転送
- メッセージキューの処理
- IoTデバイスからのデータ処理
アーキテクチャ例:
S3へのファイルアップロード → Lambda(画像リサイズ) → Lambda(メタデータ抽出) → Lambda(サムネイル生成)
データ変換・処理
様々なデータ形式の変換や加工に利用できます。
一般的な処理:
- フォーマット変換(CSV→JSON等)
- データのフィルタリング
- データの正規化
- ログデータの加工
向いているケース/向いていないケース
Lambdaが適しているケース
- 実行頻度が変動するワークロード
- アクセス数の予測が困難なAPI
- 時間帯によって負荷が大きく変わる処理
- イベント駆動の非同期処理
- 短時間で完了する処理
- 数秒~数分で完了するタスク
- ステートレスな処理
- 並列実行可能な処理
- 開発の俊敏性が求められる場合
- プロトタイプの迅速な開発
- マイクロサービスアーキテクチャ
- 頻繁な機能追加や変更
従来型サーバーが適しているケース
- 長時間実行が必要な処理
- 15分以上かかる処理
- バックグラウンドで常時実行が必要
- 状態を保持する必要がある処理
- リソース要求が安定している場合
- 負荷が一定のワークロード
- 常時稼働が必要なサービス
- メモリ使用量が大きい処理
- レイテンシーが重要な場合
- ミリ秒単位の応答が必要
- コールドスタートが許容できない
- WebSocketなどの永続的接続
判断のための指標
以下の観点から総合的に判断します。
技術面:
- 実行時間は15分以内か
- メモリ要件は10GB以内で足りるか
- コールドスタートは許容可能か
- ステートレスで実装可能か
運用面:
- 負荷パターンは、変動が大きいか
- 常時稼働は必要か
- 迅速なデプロイが必要か
- 従量課金が有利か
アーキテクチャ面:
- 疎結合が望ましいか
- 自動スケールが必要か
- マネージドサービスが望ましいか
このように、Lambdaの活用は使用目的や要件に応じて適切に判断する必要があります。
適材適所で使用することで、最大限のメリットを得ることができます。
次のステップ
関連するAWSサービス
Lambdaをより効果的に活用するために、以下のAWSサービスも合わせて理解しておくことが重要になります。
イベントソース系
サービス名 | 用途 |
---|---|
API Gateway | ・RESTful APIの構築 ・WebAPIのセキュリティ制御 ・リクエスト/レスポンスの変換 |
EventBridge(CloudWatch Events) | ・スケジュール実行 ・イベントルーティング ・クロスアカウント連携 |
S3 | ・オブジェクトストレージ ・イベントトリガー ・大容量データ処理 |
データストア系
サービス名 | 用途 |
---|---|
DynamoDB | サーバーレスデータベース 高速な読み書き スケーラビリティ |
Aurora Serverless | リレーショナルデータベース 自動スケーリング 従来型RDBMSとの互換性 |
監視・運用系
サービス名 | 用途 |
---|---|
CloudWatch | メトリクス監視 ログ管理 アラート設定 |
X-Ray | 分散トレーシング パフォーマンス分析 エラー追跡 |
参考リソース
公式ドキュメント
書籍・オンライン学習
ハンズオン教材
- AWS Workshops
- GitHub のサンプルプロジェクト
Lambdaは常に進化を続けているサービスです。定期的に新機能や更新をチェックし、スキルアップを継続することが重要です。
コメント